2023年2月21日、浜松市の遠州浜海岸で直径約1.5メートルもの謎の球体が漂着したとのニュースが全国放送された。Z星雲より、とある任務のため送り込まれ地球内生活を送っていた地球上ネーム「R氏」は、ついにこの日がやって来たかと内心嬉々とした。地球時間にしておよそ200年近くもの潜伏期間が経過していたが、その間全くZ星雲からの音沙汰がなかった為、ようやく関係者が送り込まれて来たのだろうと推察したのだった。しかし続報はR氏が期待したものとは違い、球体の中から「オッス!」と地球外生命体が挨拶しながら登場したことについてではなく、翌日、重機によって片付けられたというあっさりした内容のみであった。

 更にその翌日、R氏は謎の球体漂着跡地に居た。地球人達の能力については十分に把握して来たつもりでいたが、自国の者達が、なぜこんなにも文明の差に大きな開きがある下等生命体である彼らに対し、慎重に対応し続けるのか、少し大袈裟すぎるのではないかという疑念も抱いていた。R氏は重機が球体を撤去する作業のニュース映像の中に、自分にしか読み取れないZ星雲からの暗号メッセージを読み取っており、海岸へ向かったのだった。

 海は記憶する。そして何万年分もの膨大なデータが日々更新されている。確かに一昨日重機が球体を運び去った跡が海岸にはあちらこちらにと残されていた。キャタピラが周り、轟音をたてながら球体を掬い上げ、網状の荷袋へと収納され、ユニック車で吊り上げられた後に運び出されて行った音像を海は映し出してくれた。あたり一面「ゴゴゴゴゴゴ」と凸版文久ゴシックのフォントが砂浜にいくつも突き刺さっていた。R氏は周辺にいた釣り人やランナー達に怪しまれないよう、海の記憶データを眺め読みしていた。

 そこに、ひとりの男が現れた。R氏が地球人達に極力怪しまれないよう、自然な雰囲気で体育座りをし、海を眺める格好でいたところに彼は話しかけて来た。

「ケテパレセ?」

 R氏は最初、地球人であると思い込んでいた観光客風のその男が、自国の者である事を悟った。

「遅いよ」

 そうR氏が男に向かって言うと、男はギャリっと笑った。そして10個入りの卵パックを一つ渡して伝えた。

「地球上の記憶データを全てこの、金の卵達の中に転送しろ。君の任務はそこで終了する」

 R氏は言われたとおり、およそ200年分ものデータを約20年ずつ卵型記憶装置へひとつずつ振り分けながら転送した。

 彼らは地球での任務を終え、Z星雲へと向かった。

 彼らが夕闇に消えていったのを確認すると、一部始終を観察していた釣り人が、即座に砂浜に埋められた卵パックを掘り起こした。彼はまた、X星雲より地球への調査任務のため潜入していた特殊捜査中の地球外生命体であったが、その事を悟られないようにと、携行していたクーラーボックスの中へ、手にした卵パックをさもありなんと自然な手付きで仕舞い込んだのだった。

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2 Replies to “球体と金の卵のお話”

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